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システムエンジニアが陥る心の病 - 突然やってくる燃え尽き症候群

連載:第794回 突然やってくる燃え尽き症候群

燃え尽き症候群の事例

 IT業界では最近特に人員不足や納期の早まりと相まって心の病を患う人が増え、社会問題化し始めている。心の病の中でも多いのが「うつ」と「燃え尽き症候群」だ。これら心の病は日ごろから気をつけていないといつの間にか陥ってしまう事が多い。

 ここでは、とあるITエンジニアの実例を通して燃え尽き症候群の発生プロセスと対策方法について考えてみようと思う。

体験談(システムエンジニア Nさんの場合)

 システムエンジニアのNさん(当時35歳)の1日は次のような感じで過ぎていく。平日の朝4:30、会社からの緊急携帯電話が鳴る。「○○の調子がおかしいんだけど、、、。」と現場からの電話。眠い目をこすりながら子供が起きないよう静かに寝床から這い出し、暗い中リモート用の端末を立ち上げる。AM6:00まで色々と見てみた物のおかしい原因が良く分からない。仕方なく私服にすばやく着替え、会社へ向かうことにする。

 午前中に何とか不具合は解決し、やれやれ帰ろうと思ったところ、今進めているプロジェクトも火がついており、リスケジュールの書類作成を頼まれすぐに帰れず。結局定時にも帰れず寝不足のまま帰宅するが、次の日の夜間業務は待ってくれない。そのため携帯がいつ鳴るか分からない。

 Nさんいわく、「開発と保守の両立が無理なのは分かっている。だが、人が足りない。誰かがこの役割をやらなければ。今のところ私しか出来ない。もう少しすれば開発は落ち着くはずなので、今を乗り切るしかない。」と。

 同僚が心配し、「最近疲れてるみたいだけど大丈夫?」と聞くが、「このくらい忙しいほうが自分にはあってるんですよ。給料も増えるしね。」とNさんは無理して答えるのであった。

 しかし。社運が掛かった大きなプロジェクトがひと段落し、ある程度の余裕が出来てくると、Nさんは突然、仕事もプライベートも何もする気が起きなくなり、仕事のペースもがた落ちになった。何とか会社には行くものの、自らの身だしなみも気にならなくなり半廃人のように会社でマウスをぐるぐる動かすだけの人になってしまったのであった。

 今まで、色々難しいことを乗り越えながらも何とかやってきたNさんであったが、最近の無気力ぶりを見かねたのか、妻に様子がおかしいと言われ、いやいやながらも初めて心療内科に足を運んだのである。

燃え尽き症候群の特徴(Nさんの場合)

1.睡眠障害
 夜間に掛かってくる電話が気になり、業務のピークになるAM4:30になると勝手に目が覚めてしまう。結局眠ることが出来ずそのまま会社へ。

2.つねに疲労感
 いつでもどこでも疲労感を覚え、常にぐったりした状態になる。毎日肩や首が理由も無く痛かったり、指先の痺れ等が起きる。午前中(特に月曜日)に症状がひどく、なにもやる気が起きない。

3.人と距離を置く
 極端に人と話したくなくなる。SEと言う仕事の関係上、人とコミュニケーションをとらなければ仕事にならないのだが、人と話す気が起きない。対人恐怖症のような状態に陥る。昼休み、同僚と同席してご飯を食べるのが苦痛になる。休日も友人と会う気が起きない。好きだった趣味も全く興味がなくなる。

4.突然泣きたくなる
 特別な理由はないのだが、仕事中席を抜け出してトイレの個室で泣いたりする。解決できない悩みの吐き出し口が無く、意味も無く涙が出てくるときがある。

5.とにかくやる気がない
 仕事が山のように溜まっていることは実感しているのだが、肝心の手が動かない。ファイルを開いたり閉じたり、無意味な作業を繰り返すのみになる。

 上記のような症状に一つでも思い当たる節がある方は要注意だ。特に1はもっとも分かりやすく多いうつの前駆症状で、これを繰り返すことにより「うつ」のリスクがさらに高まると言う。なんらかの対策を講じなければそのうち燃え尽き症候群に陥ってしまう可能性がある。

燃え尽き症候群からの脱却(Nさんの場合)

 一度心療内科に行き、うつ病の症状が出ていると診断され抗うつ剤の処方をしてもらったものの、会社へ行きながらの治療では症状があまり改善しない。まずは上司に相談したところ、うつに対しては一定の理解があったものの、人手不足から他に仕事を振る人が居ないということで1週間だけ休みを貰い職場に復帰。

 しかし、1ヵ月後同じ症状が再発した。

 良い解決策は浮かばず、かなり悩んでいたのだが、そのとき、ちょうど課内の状況を知ると言うことで人事部のヒアリングがあったため、人事部の課長に相談を持ちかけてみた。ここでようやく事の重大さがはっきりしたらしく、急遽、会社とつながりのある精神科の病院に転院し、診断書を取り寄せ、まずは、1ヶ月の休暇を貰うことになった。そして、全ての仕事は同僚や上司に配分された。

 今では「業務時間外の連絡禁止」と「定時退社」という条件付で同じ職場に復帰し、ゆとりを持って働いているようだ。

同じ境遇の人のために

 Nさんは語る。

 「燃え尽き症候群」や「うつ」などの症状を改善する方法は2つしかないと思う。「休養を無理やりでも取る」事と、「原因となっている困難な仕事を全て誰かに引き受けてもらう」ということだ。業務から外れられない中途半端な休暇はかえって逆効果なので注意していただきたい。

 一番良くないのが「この仕事は自分しか出来ない。他の誰かには無理だ。休んだり、人に任せることはまかり通らない」と言う思い込み。

 無理やり1ヶ月くらい休んでしまえば、それなりに人員整理が働いて勝手に調整されるもの。それが組織ってものだ。

 うつや燃え尽き症候群は心の病なので、はっきりとした症状が出にくく、本当にその症状かは自分ではなかなか気づかない。もしかしたら「うつ」ではないのかもしれないが、上記のようなケースの場合、普通は有給休暇が山ほど残っているはず。

 本当なら有給休暇はいつでも取れるのだが、なかなか休みを申請しづらいと言う方は、一度心療内科へ行き上記のような症状を素直に訴えてみると良い。そして何らかの診断を貰い、最終的には「長期の休暇が必要」と言う診断書を貰う。これで普通の会社なら1ヶ月から数ヶ月休暇が取れる。

 同じ境遇の人が居たらぜひ参考にしてほしい。何が何でも成果を挙げる事より、ゆとりある生活を手に入れる方が何倍も幸せなのだから。とNさんは最後に語った。

後続記事:ITエンジニア「うつ」からの職場復帰

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