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書評:『一万年の旅路 ネイティブ・アメリカンの口承史』

 とにかく分厚い本で、読み終わるまでに1週間掛かりましたが、振り返ってみてもその時間が惜しくないと思う本です。

 この本は、ネイティブ・アメリカンの一族が1万年もの長きに渡り(途中の昔話を含めると10万年くらい遡る)、子孫に「語り」のみで紡いで来た物語を文書化したものです。

 今も現存する一族の語り手が、その遺産とも言うべき物語を次世代に伝えるため昔話を語っていきます。この物語では、一万年前アジア近辺(もしかしたら日本かもしれない)に住んでいた一族が火山や地震などの天災に追われ、ひたすら東へと進路を取り、ベーリング海峡を渡り、北米大陸を横断して、最終的には五大湖のほとりに居を構えるところまでが語られています。

 僕は図書館で借りたのですが、『手元に置いておく本』として一冊買ってしまおうかなと真面目に考えています。そこらの啓発本よりも100万倍身になります。

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一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史

評価:5つ星のうち4.4 4.4点

著者:ポーラ アンダーウッド,Paula Underwood,星川 淳

発売日:1998-05-26

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 とにかく、上に書いたこの物語自体が既にスペクタクルの連続なのです。その辺の冒険物語なんて目じゃないです。

 圧巻なのは、ペーリング海峡を横断するくだりです。一族が海峡を渡ろうとした一万年前は、氷河期の終わりで海水が少しずつ水位を増していき、人が歩いて渡れるぎりぎりの道を残すのみになっていました。時には道が途切れている箇所もあったようです。この海峡を渡りきるために一族一人残らず一致団結し(老人や子供も!)知恵と勇気と目的を持って完遂します。その模様がとても一万年前とは思えないほど、鮮明な物語として描写されています。

 また、スペクタクル長編的なド派手な一面とは裏腹に、常に変化し続ける事、学び続ける事を第一とする、この一族の知恵や教訓が隋所に盛り込まれています。これらの知恵は、現代社会に十分通用するというか、現代人こそが今再び思い出さなければならないエッセンスがふんだんに盛り込まれています。

 多少分厚くても、世界観にはまれば一気に読めます。おすすめです。

 以下、僕が今回読み取った教訓。

「新しい目の知恵」と「長生きの知恵」を重んじる
 「新しい目の知恵」は、既成概念にとらわれない純粋な子供からの視点、「長生きの知恵」は、色々な経験を経てきた老人からの視点です。双方の視点、考え方、感じた事を尊重し、そこから学ぶ事が大切。

学びに付いて
 人間の本質とはすなわち学び続ける事だと言う事を教えてくれます。2本足で立ち、その結果脳が発達してきた我々人類にとって、学び続ける事は宿命であり、それがすなわち『2本足で立つ者』だと書かれています。学びがある一族の繁栄と、学びが無い一族の衰退が随所に語られます。

耳を傾けること
 学びは、だれかが辛抱強く耳を傾けることによって受け継がれていきます。新しい理解に対する好奇心こそ、この物語の継承者としての資格を持ちます。逆に言うと、学ばせるための好奇心を呼び起こさせる仕掛けが必要となります。

適切さ
 ある行為に対して、正しい、間違っていると言う観点からではなく、「適切な行為とは何か?」と言った視点でみる事が重要です。適切を選ぶ為、時には、今まで学んできたことが全く役に立たないこともあります。しかし、それさえも学びとして受け取ります。

バランス
 「一方の道ではなく、もう一方の道ではなく、その間のつりあいを取る事が大事。」と言った考え方が随所に出てきます。黒か白かと言う2者択一ではなく、バランスをとった間の道を模索する事も選択肢として必要です。
 このバランスと言うのは、決定においてだけではなく、「老いと若さ」、「男と女」、「狩りをするものと農耕をするもの」の関係にも及びます。さらに2元的な考え方ではなく、3元、4元と言う事もあります。これらのバランスを保つことによって継続が産まれる。バランスは継続の必須条件である。

節度ある話し合い、意思決定と合意
 問題が起きたときは、一族で輪を囲みありとあらゆる知恵の断片を持ち寄って、節度ある話し合いをした上で物事を決定するのがこの一族のならわしになっています。一族は決して諍いを起こさず、話し合いによって問題を解決していきます。
 意思決定のためには、その前に広く情報収集を行います。コンセンサス形成の為には、話し合いのあらゆる参加者(幼児、老人も含む)から全ての知恵と考え方、そして理解を丹念に拾い集めていきます。

目的を目指す一致団結
 「一人では不可能な事も大勢なら出来るかもしれない」と言う事がこの本の中では繰り返されています。これらは一族の行動全ての源であり、経験から集団全体として、個々のメンバーを足し合わせた以上の力を発揮するという考え方が生まれました。

 この記事のカテゴリは、読書について です。
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